5 /5 山口裕一: 鷺森神社からの帰り道、御幸橋を渡った先に「曼殊院 →」の案内板が目に入りました。本来予定にはありませんでしたが、鷺森神社につづいて何かの縁を感じ、急遽向かってみることにしました。事前に調べると “小さな桂離宮” とも呼ばれる格式高い門跡寺院とのこと。かつて桂離宮を訪れ感動した経験があったことも相まって、「行ってみよう」という気持ちが自然に湧いてきました。
案内のまま進み、小川を渡り「曼殊院道」へ。ほどなくして視界に入ってきたのは、堂々たる勅使門。曼殊院は皇族や公家が住職を務めた天台宗五箇門跡のひとつであり、その格式を象徴するように勅使門は閉ざされており、参拝者は北側へ回って受付へ進む形となっています。
駐車場は普通車50台ほどの無料駐車場が整えられており、アクセス面でもゆとりを感じました(電車利用のため未使用)。
拝観料は大人800円。堂内の写真撮影は禁止ですが、縁側からの庭園撮影は許可されています。
堂内を進むと、まず目に飛び込んでくるのは狩野派の絵師による障壁画の数々。特に印象に残ったのは、岸駒作の孔雀図の襖絵。親子の孔雀が柔らかで優しい筆致で描かれ、南画風の温かみが感じられる一室でした。
そして曼殊院ならではの構造として、「上之台所」と「下之台所」の二つの台所が残されている点も興味深いところ。かつて使われていた調度品が棚に並び、当時の食文化に触れる小さな展示室のようでもあり、眺めていて飽きませんでした。
大書院と小書院から望む枯山水庭園は、何よりもまず“静かな美しさ”が胸に迫りました。白砂の広がりが穏やかな大海のように見え、鶴島や亀島がそっと浮かぶように佇む景色は、まるで一幅の絵画のよう。どこから見ても余白が美しく、視線を動かすたびに心が落ち着いていきました。
曼殊院が“小さな桂離宮”と呼ばれることは事前に知っていましたが、現地では桂離宮のように細かな解説があるわけではありません。私自身も専門的な知識があるわけではなく、ただ目の前に広がる庭の静けさと美しさに身をゆだねただけでした。それでも
、この庭園は知識とは関係なく、人の心を穏やかにしてくれる不思議な力を持っています。縁側に座って庭を眺めていると、時間の流れが緩やかになり、ただただ“このままここにいたい”と思わせてくれる、忘れがたいひとときとなりました。
曼殊院の宸殿は近年再建されたばかりで、堂内はまだ木の香りが残るほど新しく、その清らかさに包まれながら進むと、黄不動明王像がガラス張りの小部屋に厳重に安置されていました。
静寂の中で守られたその姿は、一目見た瞬間に息を呑むほどの迫力があり、思わず足が止まってしまうほど圧巻。彩色や光の当たり方が際立ち、堂内の新しさとも相まってただならぬ存在感を放っていました。しばらく目を離すことができず、この曼殊院訪問の中でも特に印象深い瞬間でした。
予定外の訪問でありながら、曼殊院は深い余韻を残す場所でした。門跡寺院としての静謐さ、狩野派と岸駒の絵画が醸す雅やかさ、枯山水庭園の静けさ、そして圧倒的な黄不動明王像の存在感。どれも心に深く染み入り、また訪れたいと思わせてくれる特別な体験でした。